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REPORT

原作者・板垣巴留×演出・元吉庸泰
原作担当編集/企画プロデューサー
座談会

昨年の9月、『BEASTARS』に新たな光彩を添えたReading Musical「BEASTARS」が、大盛況のうちに幕を下ろした。そして今年、Reading Musical「BEASTARS」episode1として新たなキャストを迎え、リボーンする。 それを記念し、原作の板垣先生と演出の元吉氏に加え、原作担当編集の安谷屋氏と公演企画プロデューサーの大沢氏の計4名での座談会が実施された。 ここでは初動から今日に至るまでの過程や今作への期待、そして『BEASTARS』への愛をうかがった。

原作者・板垣巴留演出・元吉庸泰

  • ――『BEASTARS』をReading Musicalにしたいと思われたきっかけは?

    大沢:『BEASTARS』をReading Musicalに選んだ理由は3つあります。まず、私自身がこの作品を大好きであること。次に、人間社会に重ね合わせることができる親和性と強い物語性を持っていること。そして最後に、今回メインで登場する5人のキャラクターたちが、人間の心の中にある多面性を象徴していると感じたからです。人には肉食的な一面もあれば、草食的な一面もある。時にはハルのように、また時にはレゴシのように。 Reading Musicalという形式では、パフォーマーと歌い手が時には矛盾するような表現をすることさえあり、そういった多面性の表現にはぴったりだと思いました。 『BEASTARS』の世界観は、エンターテイメント性も持ちながら、複雑な心情表現など芸術性を持つ題材として、とてもしっくりきたように感じます。

  • ――Reading Musical化の話を受けて、どう思われましたか?

    安谷屋:編集担当としては、どんな形であれ作品の魅力を届けていくことが大切だと考えています。ただ、当初はReading Musicalというカタチが未知数ではありました。それでも『BEASTARS』を新しいメディアで広げていけるのなら意義があると感じました。その思いを先生にお伝えし、許諾をいただいたという流れです。

    板垣:私自身もReading Musicalという言葉に新鮮さを覚えましたが、最初は想像がつきませんでした。以前、コロナ禍で中止となった企画のお話があり、とても残念に思っていたんです。その後にこの企画をいただいたので、「これは必然であり、運命なのかもしれない」と感じ、お受けしようと思いました。

  • ――大人気作品『BEASTARS』のReading Musical化の演出を任された際、どんな期待や不安がありましたか?

    元吉:僕も最初にお話をいただいた時は、「Reading Musical?」という状態でした(笑)。僕自身、『BEASTARS』は連載当時からリアルタイムで読み続けていた大好きな作品なんです。だからこそ、どう表現すれば作品の魅力を損なわずにコンテンツ化できるのか、本当に悩みました。予定調和でまとめてしまうと、『BEASTARS』ならではの魅力を引き出せず、“演劇”にする必然性もなくなってしまう。それが一番怖かったですね。だからこそ、まったく新しい物をつくるのであれば、演劇のルールから考え直さなければ、と話し合いスタートしたのを今でも覚えています。 アイデアは浮かぶものの、なかなか決め手がなく迷っていた時期もありました。そんな中で「歌い手・読み手のキャストだけではなく、パフォーマーを呼んでみてはどうか」という発想が生まれたのは、初めて板垣先生のお仕事場にうかがった日の帰り道、脚本を担った西森さんとの会話の中で確信を得ました。先生と直接お話ししたことで、何かがわかった感じがしたんです。それから二転三転しましたが、つくっていくおもしろさと不安はずっとありました。

  • ――その段階で、先生に直接ご相談されたのですね。

    板垣:そうですね。当時はまだ誰も明確なビジョンがないまま話をお聞きしていたので、逆に「こうやって作品が形になっていくんだな」と会話の中でその余白を紡いでいった印象があります。

    大沢:先生のお宅にうかがった時、それまで点だったものが線・面になり、一気に繋がった感覚があったんです。とても意味のある日でした。

    板垣:そう言っていただけてよかったです。ありがとうございます。

    元吉:いえ、こちらこそ!本当に感謝しています。

  • ――Reading Musicalならではの衣裳のこだわりを教えてください。

    大沢:私は『BEASTARS』の魅力のひとつに、モノクロの世界からあふれるほどの熱量を感じていました。また、先生が描かれるイラストの質感からページに収まらない強さや感情を感じました。そのエネルギーを衣裳に落とし込みたいと思い、あえて白と黒だけの無彩色にしたんです。色彩で飾るのではなく、切りっぱなしの質感や麻といった素材で熱量を表現したかった。極限までシンプルにそぎ落としたうえで、元吉さんに演出として色を付けていただこうと考えました。

  • ――演出家として「色」を加えたこだわりは?

    元吉:心が動いた瞬間の色は鮮明に張り付くのですが、それ以外の色は意外と曖昧でフラットなんですよね。だからこそ、心が動いた瞬間にだけ色を付けることを意識しました。前作でも色を厳選して使いましたが、今回は役者さんが変わるので、稽古を重ねる中でここと思える瞬間を見極めたいと思います。お客様にも、心が動く瞬間に鮮やかな色が浮かび上がるような体験をしていただければと思っています。

  • ――前作をご覧になった感想はいかがでしたか?

    板垣:まったく新しい形の『BEASTARS』でしたね。実際に舞台を拝見して、「この作品は案外舞台向きなんだ」と気づかされました。自分が知らなかった作品のポテンシャルをすごく引き出していただいたなと思っています。キャラクターの激しい感情や独特のセリフ回しを工夫して表現してくださったことで、観客に届きやすい作品になっていたと思います。「Reading Musicalって何だろう?」と思いながら観た側の心も、絶対に動くものになっていたなと感じました。

    安谷屋:担当編集としてまず確認するのは「原作準拠になっているかどうか」です。プロットを拝見した段階でその点は安心していたのですが、実際の舞台では原作のエッセンスを活かしつつ、Reading Musicalならではの表現で新しい空間をつくり出されていました。原作の良さとはまた違った魅力が生まれていて、「換骨奪胎とはこういうことか」と感じましたね。Reading Musicalが初めての方でも冒頭から自然に世界に入り込めて、非常に没入感のある作品になっていたと思います。漫画とは別の新しい表現で作品の魅力を広げてくれていると感じ、有難かったですし、嬉しかったですね。

    元吉:そう言っていただけて感無量です。今日はこれから稽古ですが、嬉しすぎて…もう家に帰って寝ようかなと思います(笑)。

    一同:(笑)

    元吉:冗談です。今作も全力で頑張ります!

  • ――『BEASTARS』はこれまでさまざまなメディアに展開されていますが、ご自身の作品を他の方に託す時、どのようなお気持ちですか?

    板垣:どのメディアでも、すべてが自分の想像通りということはありません。でも、それこそがおもしろさだと思っています。ストーリーの解釈やキャラクターの喋り方など、自分の知らない他者の思想が加わることで、作品がひとつの形から継ぎ足して新しい形になっていく。人によっては歪に感じるかもしれませんが、逆に作品がきれいにまとまりすぎていてもおもしろくないので、それくらい無秩序に広がり、思いがけない方向へ変化していくほうが、私は良いなと思っています。Reading Musicalは、まさに私の頭にはなかった演出でした。だからこそ『BEASTARS』がまた新しい形になったと感じられ、とてもおもしろかったですね。

  • ――前作を経て、今作でさらにブラッシュアップしたいことは?

    元吉:一番大きな部分は、パフォーマンスチームの役割をより引き上げていくことです。前作では歌い手・読み手の光を強調しましたが、今作では声と歌のボルテージを一層高めつつ、パフォーマーがつくり出す“画”をもう少し独立したレイヤーとして成立させたい。そうすることで、お客様がより自由に舞台を楽しめるものになっていくような気がしています。ぜひチャレンジしていきたいですね。

  • ――今作に期待されることは?

    板垣:前作は、「キラキラしたレゴシだ!」という意外性がありました。今回は三浦涼介さんが演じてくださるとうかがい、舞台経験豊富な方が演じられるレゴシはどんな存在感を放つのだろうと期待しています。想像できないからこそ楽しみです。

    元吉:本当に素晴らしい役者さんですよ。

    垣:そうなんですね!ますます楽しみです。

  • ――『BEASTARS』は様々な媒体でメディア化されていますが、そのような作品から逆に影響を受けることはありますか?

    板垣:さすがに受けますね。アニメが放送された後は、それまで全部自分の声で再生されていたキャラクターの声が、声優さんたちの声で想像されるようになりました。それに、やっぱりアニメ化すると多少注目度も上がるので、キャラクターのファンが増えましたね。作品のファンは原作の段階からいらっしゃるのですが、やっぱり声優さんの力や画の力などが相まってキャラクターのファンが増えていくと、良い意味でだんだん私だけのものではなくなってきたなとすごく感じます。私が何もしなくてもキャラクターが働いているようなことがあるので、独り立ちしていますね。

    一同:(笑)。

  • ――もし続編があるとすれば、どんなことを期待しますか?

    板垣:今作がコミックスの5~6巻あたりまでなのですが、原作の人気が出てきたのはその後ぐらいからなんです。ストーリーの波は、今作の後からなんですよね。1話で触れた食殺事件について大きな波をつくっていく話を、またReading Musicalで見るとどうなるのかなという期待はあります。

    元吉:おっしゃる通りで、食殺事件から物語をスタートしてはいるものの今作はレゴシの中の小さな一歩のイメージを描いています。そのため、この先から徐々に闇が深くなっていくんですよね。そこをピックアップしたり、アナザーサイドのような形で展開させたりするのもおもしろいと思っています。もし機会をいただけるなら、ぜひ挑戦したいと思っています。

  • ――これからの稽古や本番に向けて、楽しみにしていること、挑戦したいことは?

    元吉:やはり一番はお客様のリアクションが楽しみです。また、様々なお客様が観に来てくださると思います。その方々が作品や原作と改めて向き合い、どんな感想を持ち帰ってくださるのか、今からとてもワクワクしています。原作が本当に素晴らしいので、その力をお借りしながら全力でお届けしたいです。

    板垣:ありがとうございます。

  • ――最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。

    板垣:再び新しい形で上演されることになりました。前回楽しんでくださった方はもちろん、「昨年気になっていたけれど、観られなかった」という方にも、ぜひこの機会に楽しんでいただきたいと思います。

    安谷屋:Reading Musicalとはどんなものだろう?と思われるかもしれませんが、冒頭を観ればすぐに理解できますし、初めての方でも自然に没入できる作品になっていると思います。ぜひ原作コミックスと併せて楽しんでいただければと思います。

    元吉:前作から約1年経ちますが、今でも「良かった」「もう一度観たい」というお声をいただきます。再びお客様と出会える機会をいただけてとても幸せです。ワクワクしながら劇場に足を運んでいただけるよう、全力を尽くします。ぜひ信じて観に来てください!

    大沢:まず、Reading Musicalという当初、チャレンジングであったコンテンツ化の企画に力をお貸しくださった板垣先生・担当編集者の安谷屋さん・演出の元吉さん、本日はお越しになれなかった脚本の西森さんには企画進行に際し、多大なる理解をいただけたことに大変感謝をしています。演劇というと少し敷居が高く感じられるかもしれませんが、Reading Musicalという切り口は、その敷居を払拭できる身近なものに感じていただけると思います。『BEASTARS』を新たな形で楽しんでいただけることを願っています。